昨日に引き続き、プロジェクト・ブックから、槻橋修さんが書かれたコラム「建築プレゼンテーションで伝えられること」。
槻橋さんは建築家だそうで。まず、建築におけるプレゼンテーションの目的を
経済的、空間的、時間的にコンパクトに制約された条件下でプロジェクトを「伝えること」である。
としています。これを「イメージの伝達」という言葉で表現しています。より具体的には、
建築プレゼンテーションにおいて求められるのは、視覚的に表出しない何か -活動や、重さや、冷たさや、精密さといった建築の質的な要素をいかにイメージとして伝達するかといった技術なのだと思う。
なるほど。この話からプレゼンテーションが伝えるモノというのが3つの段階にあると感じました。それは「事実」「価値」「質感」です。
事実を伝える
この場合の事実は仕様(スペック)と言い換えても良いでしょう。数値化されて客観性のある事実です。何平米であるとか、時速何キロ出るとか、ここにボタンがあるとか。
事実というものは、ある意味では正しく伝わりますが、本当に正しく評価されるとは限りません。
これは伝えたものが事実であっても、そこにある価値に対する評価が主観的であるために発生することです。往々にして趣味ともいえる感性の問題になりがちです。「そんな広さはいらない」「そんなに遅くては困る」「ここでは場所が悪い」などなど。
これは非常に危険は論争で、客観性が失われているため終着点は見えません。
仕様は、そのコンテキスト(文脈)、つまり仕様にいたる過程や思いを共有していない人には正しく評価してもらうことはできないのです。
価値を伝える
であれば、まず伝えるべきは、その仕様が提供している価値(あるいは目的)ということになります。価値もまた、非常に客観的に、つまり論理的に組み立てることが可能です。例えば家族3人が暮らせる空間とか、一般道路で十分な性能を発揮するとか、分かりやすく押しやすいボタンといったものです。
これらの価値からもたらされる仕様というのは、社会心理学、人間工学、運動力学、ユーザビリティなどの観点から科学化されており大きくブレるものではありません。事実だけでは主観的になりがちですが、こうした価値を含む事実であれば客観的に論じることが可能です。
ですから、価値が異なる場合、例えば「1人で住む」「高速道路で性能を発揮したい」「特殊のボタン(むしろ押しにくい方がいい)」というのが出てくれば、"だからそれでは困る"というのが論理的に伝わるのです。
この価値レベルで合意をしてしまえば、仕様レベルにゆとりができます。システムもそうですが、すべてを細かく定義&チェックできない以上、こうした価値とそれに対する論理的な仕様がきっちりしていることが重要だと感じます。
質感を伝える
僕は、価値と事実が大事だと感じていたのですが、もう1つ上のレベルがある気がしてきました。それを何と書いてよいか分かりかねますが、質感と表現してみます。
質感とは、槻橋さんが言う「視覚的に表出しない何か -活動や、重さや、冷たさや、精密さといった建築の質的な要素」のことです。
例えば「自立した自分として暮らす」「ドライビングの醍醐味を知る」「探して買うことの楽しみを提供する」で、どうでしょうか。うーん、いまいち自信ない。
これは非論理的、非科学的な話です(w。ですが、なんとなくデザインや広告の世界では重要視されていることですね。
「自立した自分として暮らす」なんかだと、僕が感じたのは、初めて一人暮らしをする若者がサワヤカな部屋にいるイメージ。風が入ってきて白いカーテンが揺れるみたいな。薄いベージュのフローリングに黒いラグを引いて白い机の上でパソコンに向かうみたいな。
このような雰囲気ともいえるものは、具体論に欠けますが心を動かします。
だからこそ大事なことは、価値と事実という具体論があった上での話である点だと思っています。質感しかないと、その質感の実現性についてまったく議論がなされていないことになってしまいます。できないことを議論してもはじまりません。
価値と事実を論理に積み重ねた上で相手に訴えかける質感の提示がプレゼンテーションの極意なのかもしれません。って、具体的にどーするかは人に言えるほど体系だっていません(w
システムが伝えるもの
もちろんシステム開発においてもプレゼンテーションが重要です。建築と同じでリアルなプロトタイピングができない以上、事前に制約がある中で様々なことを伝えて理解していただく必要性があります。
この場合、事実や価値にフォーカスはありますが質感はまだまだ。僕にはシステムにも質感があると思っています。というか、システムほど「目に見ない」ものはないわけですから、その質感を正しく伝えるテクニックはすごく大事だと思います。
僕はプレゼンテーションもITアーキテクトの重要な役割だと考えています。作れるという自信をもって質感を語る。これが大事なのではないでしょうか。
![]() | プロジェクト・ブック 阿部 仁史 本江 正茂 小野田 泰明 彰国社 2005-03 by G-Tools |


コメント (2)
事実、価値、質感、この3点における合意、或いは共有。
非常に共感しました。
逆に言えば、この3点がプロジェクトを為すメンバー(パートナー)間で共有化されていないと、困難がある度にプロジェクト自体が迷走するように思います。
投稿者: hal* | 2006年10月14日 21:47
日時: 2006年10月14日 21:47
なるほど。そういう意味では質感を「ビジョン」と言って良いかもしれません。で、プレゼンテーション力はリーダーシップ。
プロジェクトには、自分たちで情報共有するためのプレゼンテーションが必要なのでしょうね。
投稿者: yusuke | 2006年10月15日 01:02
日時: 2006年10月15日 01:02