知り合いの誘いで京都へ。その友達の紹介で京友禅の工房「高橋徳」さんを見学することができました。高橋徳の作品は皇室でも利用されており様々なデザイナーとのコラボレーションでも有名です。
友禅の歴史
まずは友禅の歴史から(諸説あるっぽいのですが聞いた話は)。300年前の江戸時代、時は5代目将軍綱吉のころ。世に知られる悪法「生類憐みの令」とともに「奢多禁止令」(いわゆる贅沢禁止令)が発令され、金糸の刺繍を使った贅沢な着物が庶民の間で一切着ることができなくなってしまいました。
ところが女性は美しい着物が着たいもの。なんとか刺繍や絞りを使わずに女性用の美しい着物を作ることはできないものか。
ある人が目を付けたのが東山の知恩院前で扇子屋を開いていた宮崎友禅。当時、友禅の扇子は緻密な美しい柄で知られブランド品として有名でした。扇子絵師として有名な友禅に着物の柄をデザインさせ販売することはできないものか、と考えたのです。今でいえばプロデューサーですね。
しかし、着物に絵を描くだけでは染みてしまって絵になりません。そこで職人たちは昔からあった糊置き防染の技術に目を付けます。糊置き防染は、糊で細い線を描き、その内側に色を付けることで糊が防波堤のようになって染料の広がりを抑えてくれるという技術。そのころまでは刺繍の背景として単純な絵を描くためだけに使われていた技術ですが、これを応用すれば友禅の緻密な柄を着物で再現できるはず。しかも刺繍を施すよりも安い値段で着物を作ることができる。
こうして販売された着物は当時としてみれば邪道ともいえるものでしたが、その美しさと安さから爆発的人気を呼んで一大ブームに。その後「友禅」の名は文化として継承されるまでになったのでした。
歴史的な制約の中で、素晴らしいプロデューサー、デザイナ、職人が出会い、のちには文化として成立するような仕事をやってのける。本当に素晴らしいことだと思います。その後、明治ごろから金糸の刺繍や金箔が施されるようになり、現在知られている京友禅の形が完成します。
伝統を守る:パターンの必要性
あと面白かったのは職人と伝統の話。
友禅では伝統的な着物を作る場合には昔作られた絵柄を大事に使いまわすそうです。友禅では時代ごとに花の形が変化しているのですが、現代でもそれらの柄を用いており、配置や彩色はかえるものの形は変えていません。
友禅の作品には基本的にはプロデューサーがいます。そのプロデューサーが方向づけを行い職人が実際に制作をします。パターンを決めておけば職人が我流に走り変な方向になることを防ぐことができる。我流に走りすぎれば職人ではなくてアーティストになってしまう。そういう道もあるが友禅はあくまでも職人の技であると。
あとはイマイチなプロデューサーだとしてもパターンがあれば、その範囲の中で作品は完成するという面もあるのだとか。どちらにせよ、パターンの存在によって友禅というものに芯を通して伝統を壊すことなく継承することができるそうです。
伝統を守る:価値の伝承
ですが、一方で、これだけでは伝統は守れないのだとも語られていました。6年前、工房100周年を記念して作品展を開催した時のこと。京都にいる繊維関係の人でも京友禅の由来や製法なんか全然知らない。
そのことに愕然とした工房主は、これまで閉鎖的だった工房をオープンにして体験絵付けや勉強会を始めました。それまで語り下手だった工房主は自ら先頭になって友禅の歴史や製法と込められた思いを語ったのです。
その理由は簡単です。伝統を守るためには、その伝統に価値を見出してくれる人を増やさなくてはいけない。そのためには劣悪な模造品との区別をつけていただくだけの目を持っていただかなくてはいけない。本物とは何かを語らなくてはいけない。自分たちが伝統を守るなんて小さい話だけでは伝統は守れない。日本人全員に伝統を考えてもらわないといけない。
伝統を守る:コラボレーションによる世界展開
さらにデザイナーとのコラボレーションも積極的に展開します。友禅という素晴らしい伝統を守るためには世界に認めてもらうことも大事。そのためには世界的に目を向けてもらえるような作品に友禅が使われなくてはいけません。伝統的な着物だけでは日本人しか相手にできない。もっと友禅の技術はいろいろと応用ができるのではないかと。
Yohji Yamamotoにはデニムに友禅で絵を描くことを依頼されました。「職人であるからにはできないとはいわれへん」と柔らかな京都弁で言いますが、当然、デニムに友禅をつける技術なんてどこにもありません。デニムに友禅をするためには、その部分だけインディゴ染めを落とさなくてはいけない。市販のブリーチ剤からありとあらゆる抜染の技術を試行して挑戦し、なんとか納得できるものができます。そして作品はパリコレへの出品も達成しています。
その後も勉強を続けて今では"ぼかし"をいれるような抜染もできるようになり、より豊かな表現を可能にします。その過程で「失敗の数だけは誰にも負けません」と力強く言われていました。
今は新しい染料に挑戦しているそうです。従来の染料は紫外線に弱く長く使っていると色が褪せてきてしまう。それでは世界に通用しない。そこでエルメスなどがプリントで使っている染料を試したものの手書きではうまいことできない。これも試行錯誤の末になんとか友禅で使えるようになってきた。まだ製品化はできていないが近いうちに必ず世に出したいと言われていました。
これぞ職人の心意気というのを見た気がします。技術を尽くしてプロデューサーやデザイナの考える世界を実現する。それだけではなく価値を認めてもらうための活動も地道に続ける。
「今日これで、また新しい同志が増えました」。素敵な笑顔でそう語られていたのが印象的でした。
あ、友禅は買えませんが着物を一着仕立ててもらうことにしました。デブサミには間に合うでしょう。ふっふっふ。
