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ソフトウェアをデザインしてはいけない

 AXISフォーラムで阿部雅世さんのレクチャー「感覚の美をデザインに求めて 阿部雅世のデザインワークショップ 9年の軌跡」を聞いてきました。(安藤幸央さんがログを取ってた!右前でずっとAirをぺちぺちしていたアヤシイ人は安藤さんか)


 阿部雅世さんは2004年に国立ベルリン芸術大学でHaptic Interface Design Institute(Haptic :ハプティックは触覚という意味)という新学科を実験的に設立。それでぴんと来る人もいるでしょうが、原-研哉さんのHAPTIC 展に参加したり、最近では対談本「なぜデザインなのか。」を出版されたりしています。ずっとヨーロッパで活躍している建築家/デザイナーで、国内でお名前を聞くようになったのは最近だと思います(違ったごめんなさい)。


 阿部さんのテーマは「素材の持つ触覚的な美の感覚」。とはいえ変わった素材を扱うだけではなく、日常にある素材からの再発見や、違う用途への採用など「素材の中にある感情を見つけ出す」ことをしているのだとか。

 今回のレクチャーは題名通り阿部さんが開催する"ワークショップ"のドキュメンタリーを紹介するモノ。9年間で23回開催したワークショップは、同じ内容ということではなく、そのときのメンバーやテーマに合わせて構成されます。ただし、「必ず最終日は展覧会」というようにコンセプトで終わらせることなく、それなりの数のモノを創り出す。しかも、実際に販売するようなものになることもあるそうです(こちらにワークショップから生まれた製品の話がありました)。


 ワークショップは実に多彩だったのですが、その中から1つだけ。芸術大学の大学生相手に行った3週間のワークショップ。その2週目のテーマは「シャボン玉をデザインする」。これって、ものすごく奇妙なテーマだと思いませんか?阿部さんが言うように「紙に、いくら丸を書いてもシャボン玉をデザインすることにはならない」からです。

 デザイナは否応なくシャボン玉を発生させる装置である輪っかの構造やシャボン玉液のレシピを考えることになります。輪っかには数十円でできること、自分たちで量産できることといった制約が設けられました。なので、よく日本でも見かける"輪っかに枝がついたモノ"を作ります。

 阿部さんは、このテーマの意図について「椅子をデザインするというと、椅子そのものをデザインしてしまうデザイナーがいる。でも、本当にデザインするべきなのは座り心地。椅子は座り心地を発生させる装置なのです」と説明します。

 良い輪っかを作るために必要なことは「シャボン玉液の配合も大事だけど、シャボン玉をたくさん出すためには、輪っかにたくさんシャボン玉液が溜まるシステムを考えなくてはならない」。

 結果としてできたモノは、数重に蒔かれたコイル。しかも、シャボン玉が出る側の針金が折れ曲がって円の中央を直線に横切るモノ(これは意図して作ったのではなく、素材にしたコイルにストッパーが付いていたということだと思う)。液がたっぷり溜まるし、しかも、常に双子のシャボン玉が出てくるという作品になったそうです。


 後になって「輪っかにたくさんシャボン玉液が溜まるシステムを考えなくてはならない」という言葉を思い返すと、あー、そうですよね、と。ここで使われている"システム"という言葉が、僕らの業界に照らし合わせても本当に正しいなと感じています。

 Wikipediaによれば、システムとは"相互に影響を及ぼしあう要素から構成される、まとまりや仕組みの全体。"です。僕らが普通システムという言葉を使うとき、それはソフトウェアやハードウェアの構成要素のことを示しています。しかし、ここで阿部さんがいうシステムとは、そのモノではなく、結果を生成するための仕組みであり、その全体プロセスのことです。

 別の言い方をすると、僕らが使うシステムは"静的な要素の集合"でしかありませんが、阿部さんが使ったシステムという意味は"動的な生成プロセス全体"です。

 システムとは、本来は、人が使って何かを産み出すコトの仕掛けを指しているべきなのです。だから、僕らもソフトウェアをデザインするのではなく、"人がソフトウェアを使って何かを産み出すプロセス全体"をデザインしなくてはいけない。

 では何をデザインすべきか。人間中心設計やユーザビリティが1つの回答でしょう(見た目という意味ではなくて、もっと内部構造まで含めてね)。それから現場への展開やサポート。一方ではシステム開発の工程や組織。そして、システムがビジネス的価値を生み出す仕掛け。

 大事なことはプロセス全体を考えるという思考です。プロセスそのモノはユーザーやメンバーと一緒に発見的アプローチで探れば良いことです。一緒に発見することに意味がある。いわゆる戦略コンサルみたいに「正解を提示しよう」なんて考える必要性はないのです。


 最後に、阿部さん自身の感想。当然ながら初めてお会いしたのですが、不思議な魅力の方でした。一見するとエネルギー溢れるようではないのですが、お話を聞く限りは、もうエネルギーの塊。サルベニア(地中海の島)の金物工房での4日間のワークショップのくだりは圧巻。4日間で、それだけの数を産み出すなんて、並大抵のことじゃない。おそらく一緒に仕事をすると、柔らかい言葉なんだけどガンコでまっすぐで諦めない人なんだろうなぁ。

 とても良い刺激を受けました。


4582620418なぜデザインなのか。
平凡社 2007-10-02

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コメント (2)

mark-wada:

今回の記事も腑に落ちたので、またコメントさせてもらいます。

>僕らもソフトウェアをデザインするのではなく、"人がソフトウェアを使って何かを産み出すプロセス全体"をデザインしなくてはいけない。

この考え方は業務システムにも当てはまると思っていて、これまでの業務システムには欠けていたところだと思います。

必要なことは記事にもあるように、静的なものから動的なもの、システム主体から人間主体、作ってナンボから動かしてナンボといった変革ではないでしょうか。

工業デザイン的な発想が大事になるように思います。

yusukeです。

その通りです。まさに業務システムを意識して書いた文章です。

業務システムこそ、そのシステムが動いて価値を出すことにフォーカスすべきだと思います。

たしかに工業デザイン的な発想には学ぶことが多いでしょうね。

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2009年07月31日 12:32に投稿されたエントリーのページです。

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