改めてソフトウェアのオープン化について考えています。ソフトウェアの特性を考えると、共有を実現するためにソフトウェアほどすばらしいモノはありません。しかも、この活動を会社としてやることに大きな意味があると思うのです。
ソフトウェアの「所有の同時性」と「同質性」
ソフトウェアの特性を整理すると「所有の同時性」と「同質性」というものになると思っています。
サービスは「無形性(所有できない)」と「同時性(生産と消費が同時)」という特性があります。これと比較するとソフトウェアは媒体(メディア、サーバ)を通じて所有できるので無形とは言えません。ですから所有できます。しかも、同時に所有することができます。これが「所有の同時性」です。
しかもソフトウェアはどんなに所有が同時に発生しても品質の劣化は一切発生しません。工業製品のコピーや製造工程はブレを管理しなくてはなりませんが、ソフトウェアのコピーはまさにそのもの自身なのでブレは起きません。これが「同質性」です。
コモディティ化が発展を生む
一方で産業はコモディティ化を超えて発展してきます。鉄道の路線幅から、電気の流れ方から何をあげても良いでしょう。全員で共有化、標準化することでコモディティを前提としたビジネスが発展する。引っ越し屋やバイク便屋は道路を作る金額を事業に含める必要はありません。公共とは私人所有よりも共同所有のほうが良いということです。交通機関は代表的な例でしょう。
このコモディティ化や共有化を考えると、ソフトウェアの特性がぴったりとはまります。
IBMとSix Apartが考えるオープン活動と利益活動の距離
2008/02/28に開催されたbuilder techdayにてモデレーターしてきました。パネルの参加者は宮川達彦さん(Six Apart,Ltd. Lead Application Engineer)と、米持幸寿さん(日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング・テクノロジー・エバンジェリスト)です。このパネルではオープンという言葉をIBMやSix Apartがどう考えているのかが表れていたと思います。
米持さんは「IBMに取ってオープンソースは無料ではない」と言われていました。明確な投資先なのです。LinuxやEclipseを育てることはIBMにとって大きな利益をもたらします。
これは「小さな経済圏での共有化」を実現していると言えます。ただし、これは簡単なことではありません。公共では社会的ジレンマやコモンズの悲劇といった問題が指摘されていますが、それと同じコトです。
この問題を回避するためにはオープンソースに対する活動とリターンを得る活動を離すことが重要です。
例えばIBMではLinuxやEclipseの開発に携わることでは直接の利益を一切求めていません。その代わり、LinuxやEclipseを使ったプロダクトやサービスでは利益を求めています。
ですから、コミュニティとプロダクトは明確に切り離されています。IBMではクリーンコードという考え方があり、自分たちが管理できているコードでないものは保証しません。例えばEclipseRCPをベースにしたプロダクト(NotesやJazz)では、コミュニティによって作られたコンポーネントは使いません。全部、自分たちで作ります。
この考え方はLinuxの24時間商用サポートでも同じです。IBMはLinuxのコミッタを社員として大量に抱えており、クライアントに問題が起きたときに即座に対応できます。WebSphere CE(コミュニティ版)では、ベースになっているGeronimoのコミッタを大量に抱えていたGlueCodeを買収して、これを実現しました。オープンソースですが、管理されているわけです。
一方、Six ApartはMTやVoxといったプロダクトやサービスを主軸にした企業です。宮川さんは「プロダクトではコミュニティから出来てきた優秀なプラグインを製品に取り込む場合に、必ずSix Apartのエンジニアが書き直して品質をチェックする」と言われていました。
また、Six Apartは多くのオープンソースを公開していますが「ニッチな領域で、Six Apartにとって必要であり、他の人も利用したいと考えるモノをオープンソース化をしている」そうです。つまり、この投資が共有され育つことが(金銭的かは別として)利益になる可能性をきちんと考えているのです(MTのオープンソース化は別の意味がありますが、ここでは割愛)。
事業会社だからできるオープンなエコシステム
IBMにしてもSix Apartにしても、オープン化を前提としたエコシステムが完成しているのです。かつ、それは事業会社として投資をするという活動から生まれています。ただし、IBMとSix Apartでは投資額違います。投資が小さければ、その分だけ利益活動はオープン活動に近づく必要性があるだけです。
オープン化は事業会社にとって、非常に大きな可能性を秘めたものです。これを「楽しいから」「名誉だから」というだけで考えてはいけません。確かに楽しいことも名誉も大事なことですが、それだけではない。ここを指標化して事業活動として明示したいという意識があります。うまくいくかは不明ですし、どこから始めるかも曖昧ですが。
