ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTで開かれている、山中俊治さんディレクションの「骨」展に行ってきました。改めて"構造が動きや形を導く"ことを認識できた、楽しい展示会でした。
山中さんといえば、自動改札の傾きを作ったことでも有名ですし、Cyclopsやmorph 3といったロボットをご存じの方もいるかもしれません。エンジニアリングとデザインを融合させた素晴らしいデザイナーです。その山中さんディレクションなら行かないわけにはいかない。しかも、山中さんの愛弟子である田川さん率いるtakram design engineeringによるクリエーターズトークもあるということで、楽しみに行ってきました。
さてクリエーターズトークに登場したのはtakram design engineeringの畑中元秀さんと渡邉康太郎さん。畑中さんの専門はロボット工学で、今回展示されているPhasma(ファズマ)の設計者。実直そうな印象。一方の、渡邉さんの専門はソフトウェア工学でDoCoMoのiコンシェルやiウィジットのデザイナなんですが、それ以上にポエマーっぷりが素敵。代表の田川さんはちょこっと話したことがあって、あとは元SUNでLooking Glassの作者である河原さんもお会いしたことあるのですが、なんというか、四者四様っぷりがいい感じ。多様性から良いデザインは生まれるのだなぁと、改めて認識。
トークは彼らの作品紹介で、中でも丁寧に説明されていたのがミラノサローネで展示したOvertureと、今回展示のPhasma。
Overtureは、東芝の依頼で作った作品。まぁ、まずは見てください。
これ明かりの正体はLEDなんですね。触れるとぐっと明かりが強くなるのですが、それだけではなくて触っていると鼓動をします。実物があったので触らせてもらったのですが、けっこう鋭くて力強い鼓動でした。"どくっどくっ"と"ぶんっぶんっ"って感じの間ぐらい(伝えにくいw)。
さて、これを作った背景。知らなかったのですが、実は東芝が120年前に日本で初めて白熱電球を販売し始めたそうです。そして、来年には製造を停止するとのこと。今後、家庭用の電球はLEDなり、蛍光ランプに置き換わっていくそうです。
渡邊さんのポエム付き解説によると、この作品のテーマは「白熱電球の記憶をLEDに受け継がせたかった」というのと「白熱電球からLEDに切り替わる歴史的な瞬間に立ち会っていることを表現したかった」というもの。LEDの特性や先進性を活かした作品にしても良かったのだけど、せっかく、こういう転換期なんだから白熱電球とLEDをテーマにしようということで考えたそうです。
まず、電球型のガラスは、その昔、電球を手吹きで作っていたという松徳硝子の職人さんによるものなので、まさに本物。
で、水が張ってある理由が面白かったです。LEDが上から光を照らすので、水のレンズ効果で明かりが広がる、そして、触れたときに水の有機的な揺れが明かりを演出するというのがビジュアル効果。
もう1つが「触れたときに鼓動する」という仕掛けそのもの。フィラメントのように突き出している2本の金属棒のうち、1本はダミーで、もう1本はマイクロチップにつながっているそうです。で、その金属棒から電子が放出されていて水の中に満ちている。そこに人が触れると、電子が手に流れるので、それを感知してLEDの明度を変えたり、モーターを動かして鼓動させる。
もうね、こういうの好きですよ。後から見れば「それでしか実現できない完璧な仕掛け」なんだけど
、これにいたる前に「これでしょ!」っていう"ひらめき"があったはずで、そういうのを想像するとワクワクしちゃう。この感覚こそ、エンジニアリングとデザインの融合だからこそできることなんだと思っています。
さて、次がPhasma。畑中さんの着想は、まさに骨から。当然、骨というのは構造でしかないのですが、そこに生物らしさを感じるのは動きを想起されるからだろうと。筋肉とか腱といった駆動部が骨を動かして、振る舞いを生む。だったら、動いていない時は非生物的だけど、動いたら生物に見えるようなものを作れないか。しかも、とてもシンプルな動きで。そこから生まれたのがPhasmaだったそうです(とかなんとか言ってたけど、まぁ、"ただ作りたかった"だけだと思いますよ。なんか、畑中さんって、そういうのが語れるようなタイプじゃなくて、もっと実直な人なんだなと思いました。デザイナーに失礼な話ですがw。まぁ、ロボットを作るのに理由なんかいらないんですYO!)。
動画見つからなかったのですが、写真はこちら。
昆虫を想起させるフォルムだけど、あえて金属色とブラックだけで非生物感を演出。黒いモーターが回ると、中央部のクランクが回って、ピストンを前後に動かす。それが黒いひげにみえるワイヤーを伝わり、6本の足を伸び縮みさせる。あとは蹴りだす力によって足の関節が柔軟に動いて前に進む。実際の動きは、"しゃかしゃか"と"ぴょこぴょこ"の間ぐらいです(再び、伝わりにくくてごめんなさいw)。
仕掛けで面白いのはワイヤーの張り方。実はクランクは2つあって交互に動くようになっています。片方のクランクは右中央と左前後、もう片方は左中央と右前後につながっています。つまり、必ず3点ごとに伸び縮みが逆になる。こうなっていると平衡感覚器がなくても"構造上"絶対に転ばない。これは本物の昆虫でも同じだそうです。
足そのものは伸び縮みだけの単純な動きしかしないのに、足の傾きだけを操作するだけで前に行ったり、後ろに行ったり、曲がったり、回ったり、実にユーモラスな動きが生まれます。
車は前に進むために車輪を回し、曲がるためには車輪を曲げます。そら、当然、進むし、曲がりますよね。でも、Phasmaは足を伸び縮みさせ、傾けるという、およそ前に進むこととは異なる駆動しかしないのです。でも、前に進み、曲がる。構造が動きを導くのだ、というのは、このブログでは東京大学 知能機械情報学の國吉康夫先生を紹介していますが、それに通じるものがありますね。
いやぁ、クリエーターズトーク、とっても楽しかったです。ただ、ちょー失礼ですが、一言言わせていただくと「もっと上に行けんじゃね?この人ら」と思ったのも事実。やっぱ山中さんの完成度って、もっと高いんじゃないかなぁというのが正直な感想。で、きっと、もっと上に行きたいんだろうなというのは感じた気がしています。「面白いなぁ」から「すげぇ!!!」の領域に行ってほしいと心から思いました。グローバルで、ばんばん活躍してほしいです。なんか事務所も近くに移ったらしいので、遊びに行きたいなぁ。
追記:上記のような話を書いたのだが、開発に3年かけたAfterglowがアメリカでニュースとして大きく取り上げられたらしいとか聞くと、時間の問題のような気がしてきた。
長くなってきましたが、どうしても紹介したいのが尾陽木偶師九代目 玉屋庄兵衛さんの「骨からくり『弓曵き小早舟』」。これは、まじですげぇ!!!の領域です。1時間おきに毎週土日の14時と16時に実演をやっているみたいなので、それを見計らって行くことを、ぜひお勧めします。
滑車と絹糸と木で作られた人形が、ハンドルをぐるぐる回しているだけなのに、矢を取って、弓に掛けて、引き絞って、射るという流れを実現しているのも、まぁ、すごい話なのですが、その射る動作の張りと抜けが表現されているのがすごい。
僕、高校と大学でアーチェリーをやっていたのですが、弓を引くのって筋肉だけじゃできなくて、骨で支えるのがすごい大事なんです。筋肉は器用すぎるので、骨を使って安定させる。この感じが、良く出ている。弓曳き童子では弓を持つ手(押し手)が、支える方向にだけ構造を張っていてて、弓を射った瞬間に力が解放されて前に落ちるんです。きていに抜ける。これはね、よくできている。しかも、矢をかけたあと、矢を持つ手(引き手)が後ろに伸びてから射るのもすごい。なんか、リアリティを感じます。
これをぐるぐるとハンドル回すだけで(しかもね、きっと3-4回転しかしてない)実現しちゃうって、何よと。構造が動きを作るとは言ったものの、ここまで完成されているのはすごいなぁ。あと、木の種類も4つか5つ言われていたのですが、体幹を支える部分は固い素材で、型や腕は駆動系が動きやすい摩擦が素材なのでしょう。
デザインは山中さんだそうですが、スケッチが飾ってあるので、これも見てほしいです。スケッチ段階で構造が書き込まれているの。これは相当に弓曵き童子を勉強したんだろうなぁと。顔が能面なのもいい感じでした。凛とした力強さが伝わってきて。
他の展示でよかったのは、くやしいですが、やっぱりTHA/中村勇吾さんの「CRASH」かなぁ。いや、勝手なライバル心なんですけどね。僕もソフトウェアエンジニアなもので。
お得意の時計シリーズですが、トラス構造の数字が落ちてきて、地面にぶつかって壊れる。しかもね、壊れ方が、"ぐわっとしなって、ぽきんっ!”っていう絶妙な感じに調整されていて、"ぱりーん"でも、"ばりーん"でも、"ぐちゃぁ"でも、"がっしゃーん"でもなく、いい感じ。力がかかったところが赤くなるものうまいなぁと。
というわけで、骨展はお勧めなので行ってみてください。
振り返ってお仕事を考えるに、エンタープライズアプリケーションの領域でも"エンジニアリングとデザインの融合"というテーマは同じと思っています。最近はモバイルあたりもいじり始めて、AR含めてテーマは面白い所に。ほんと、デジタル情報ってやつは硬くて頑固で扱いにくい。もうちょっとなんとかして「構造が動きを導く」というのもソフトウェアで実現させたいし、それをちゃんと現場で使えるようにしたい。僕が生きている間には作ってみたいですね。
追記:弓曵き小早舟の実演時間が間違っていました。ごめんなさい。

