AR(Augmented Reality/拡張現実)が注目を集めています。この面白さの理由を考えていくと根底にあるのは「見えなかった現実が見える」ということだと思います。
さて、まずは基礎的なところからですが、お手元にAndroidケータイがあれば、先日リリースされたNyARToolkit for AndroidをAndoroidマーケットからダウンロードすることができます。NyARToolkitはARの基本的な機能を提供するツールキットで、これを応用することで様々なARを作ることができます。
ところでARというのは「センサーを使って周囲の状況を把握し、適切な処理をする」こと。これだけではエアコンの温度調節と同じです。エアコン的なものを越えて最近のARが面白いのは次のような2つのポイントと感じます。
1つ目は周囲の状況を把握するのに画像解析や地理情報解析が利用できること。これで(比喩ではなく)"目の前の"状況に適用できるようになった。そして、人が"自分のリアル"と"カメラの中の映像"が連続的であることを理解し、つながりを認識します。技術的な観点で言えばARが拡張している"現実"とは映像や地理情報でしかなく、ただ、それを人が現実と認識しているだけなのです。
2つ目は可搬性の向上。AR技術は大量のコンピューティングパワー(CPUとかメモリ)を要求しますが、ようやくモバイル端末で十分な速度で利用が可能になりました。人は様々に移動しテンポラリな活動の場を持ちます。そこに持ち込まれたモバイル端末によって"近現実"が掬い上げられ、適切なデータを提供されるのです。
1年ぐらい前ですが、The BMW Z4 in 3D Augmented Realityは分かりやすくAR。Z4のCMに合わせた内容ですが、ソフトウェアをインストールすると自分の部屋の上でミニチュアZ4が走りまくりタイヤの後を残します。このキャンペーンでBMWが制作した「BMW Z4 vs London」というビデオクリップがすごく楽しい。
このクリップが楽しいのは街中でZ4が走り回っているところでしょう。映像そのものに僕らが勝手にリアリティを感じ、そこを走り回るZ4の虚像にリアリティを感じてしまう。この脳内の困惑が楽しさとなります。
最近話題のARといえばセカイカメラです。セカイカメラは地理情報を利用して現在位置を特定し、ユーザーがその場に対して登録したタグを表示します。技術そのものはシンプル(現実的)ですが、モバイルという特性を活かし、ARをコミュニケーションのツールとして定義したことが非常に高い評価を得たのでしょう。以下はTechCrunch50でのデモ画像です。リリースされているセカイカメラではできないような機能も含まれていますが、まぁ、セカイカメラの行き先を理解するのは良いと思います。
ARはリアルの体験を豊かなものとする可能性があります。場所や人などの対象そのものが情報を記憶することはありません。あくまでも見る側が対象に意味を見出す。体験としての出会い(場所、人問わず)、とくに日常から離れた出会いは強い影響を持ちますが、そこに物語が与えられればより強く記憶されることになります。観光名所には解説が必要なのです。ライブを楽しむ文脈的知識のことを"教養"と呼ぶわけですが、その一部がARによってもたらされるのはリアルの拡張と言えると感じます。
TED2009で発表された「パティ・マースによる 「第六感」デバイス 」は面白かったですが、その開発者であるプラナフ・ミストリー氏がTED Indiaで行ったプレゼン。
彼のアイデアが面白いのは持ち運び型のプロジェクターを使う点です。カメラをかざすことなくプロジェクターがダイレクトにリアルに情報を重ねます。もちろん、プロジェクターが万能なわけではないですし、現実化にむけて技術的な障壁は低くないですが現実を拡張する感覚がよく伝わってきます。
一方で、ARはリアルの喪失とも見えます。以前、「Google Earthで街並みを見ているだけで満足。特にそこに行きたいとは思わない」という若者の話を聞いて、残念に思ったのですが、それにライブ映像が加われば「もう行く必要ないじゃん」という人は増えそうです。こちらはマイクロソフトのBing Mapsの情報に写真や動画を重ねるデモ。後半、ストリートビューにリアルタイムの動画を重ねていますが、これはすごい。
ただ、これはこれで豊かな取組みなのかもしれません。地図サービスが大きな災害に際して特設サイトを立ち上げるのは、擬似的であれ世界で起きていることを体験してもらうため。場所性の喪失を単純に悲しい事というだけではなく、自分の"目の外の現実"を知る現実拡張だと捉えるのです。
最初には、ARとは「見えなかった現実が見える」と書きました。ARは単にデジタル情報を重ねるというものではありません。最後に、実現はいろんな意味で不可能に近いと思いますが面白い妄想を。ロンドンに住んでいるKeiichi Matsuda氏の作品。人々が広告の表示で生きている時代、1杯分のお湯を沸かすために、どれだけの広告を表示するのか。極端ではありますが、ARの間違った進化を示す作品です。
Augmented (hyper)Reality: Domestic Robocop from Keiichi Matsuda on Vimeo.
別にAR(画像認識/地理情報認識)に限らず、ユーザーのアクティビティをセンシングし、そこに含まれている近現実から適切な情報をフィードバックするという手法は色々と考えられます。ARはとても分かりやすい形で、これを表現しただけ。
例えばGoogle PowerMeterやMicrosoft Hohmというのはスマートメーターを使って家庭の電力消費量をリアルタイムに表示する取組みです。いずれも完成したサービスとは言い難い状態ですが、導入した家庭では10%-20%の電気消費削減ができるとのこと。もっとフィードバックを上手に出来れば大きな成果を挙げられる気がします(ちなみに日本でも経済産業省が主導してスマートグリッドの議論を進めています。ただ、実証実験とか見ていると、電力会社とメーカーやベンダーの技術自慢にしか見えないんですよね...)。
ITによって見えなかった現実を知ることで変わる事ってたくさんあると思います。単なる技術自慢に終わらずに生活を豊かにできないもんかと考えていきたいです。
