Inter Communication (インターコミュニケーション) 2007年 04月号 の特集は、「デザイン/アート 芸術と科学のインターフェイス」というもの。いくつか面白い記事があったのですが、抽象化がもたらすリアルみたいなことで思うことがありました。
まず、巻頭の茂木さんと山中さんの対談はそうだよねぇーの連続。山中さんはSuica自動改札機やCyclopsをデザインしたことで有名な方。
ところでヒューマノイド・ロボットを作るうえで、人間に似せていくほど不気味になってくるという「不気味の谷(Wikipedia)」という現象があります。山中さんは、これを「サイエンティストの傲慢」と切った上で次のように述べています。
彫刻を作るとき、睫毛を植えたり、髪の毛を生やしたりは普通しないですよね。なぜならば、そんなことをしないほうが美しく、よりリアルであることをアーティストたちは気がついているから。そういう細かいディテールは、下手に具象化するよりも抽象化したほうがわれわれの心に訴えかける。ロボット技術者たちがいまさら「リアルになるほど気持ち悪くなる、困った」というのは、今までロボットの開発を「表現」と意識したことがなかっただけのこととしか僕には思えない。
これは非常に正しい指摘だと思います。僕の友人で家庭内ロボットの実証実験を経験した人がいるのですが「ロボットに動く口がないほうがかわいい」と言っていました。こうしたことはロボットと人間の関わりが人間の心理であることをしめしています。
山中さんの設計されたCyclopsは単眼の背骨だけみたいなロボット(写真)なのですが、これについて
ロボットと人の心理的関係において重要なのは、抽象度なんだということを提示したかった
と述べています。
振り返って僕らの仕事を考えてみるとソフトウェアにおけるデザイン、つまり設計やモデル化という作業に面白さを感じます。エンタープライズ・アプリケーションというのは現実世界で使われるものです。ですが、ソフトウェアそのものは現実に対して抽象的にならざるをえない。山中さんの話を受けて考えると、ソフトウェアの抽象化がもたらすリアルとは何か、そして、どのように現実世界を抽象化すればリアルに感じるのかということに向き合う必要があります。
ぱっと思いつくのがオブジェクト指向です。現実世界のオブジェクトを写し取ってオブジェクトとして定義する、というわけです。僕自身もそう考えていたのですが最近では間違っていると強く思うようになっています。
なぜならオブジェクトに注目してもリアルにはならないのです。オブジェクトというのは現実にあるものしか相手にできません。ですが、オブジェクトがあるからといって業務(行為・動作)にはなりません。売上伝票オブジェクトがあっても、売上という業務は見えてきません。
注目すべきなのは動作そのものなのです。これについては渡邊恵太さんの「インターフェースの大変動」という記事が面白かったです。Googleのページ・ランクを例としてあげているのですが、
ペイジ・ランク的なアルゴリズムでは、コンピューターが解釈することをせずにウェブにおいて"人間がふだん行っている行為"に着目し、それを意味としたのである。ペイジ・ランクの本質は、アルゴリズム自体というよりも、そういった"ウェブにおける暗黙的な人間の活動をアルゴリズムに置き換えた"ことに価値がある。
僕は、これが抽象化がもたらすリアルの典型例だと思います。
目に見える現実をそのまま写し取ってもリアルになりません。それは不気味の谷に落ちていく道です。すでに落ちているシステムもよくあるのではないでしょうか。きれいにモデル化されていたはずなのにシステム化したらどうも使いにくい。
そういう場合は抽象化が必要です。それは活動をどう捉えるのかということに他ならないのです。そのために大事なことはなにか。
UIの設計の際に現場に調査しに行き、「何か使いにくいことはありませんか?」と訊くのはタブーである。なぜなら、ユーザーは自分自身がやっていることはわからないからだ。その場合、ユーザーが述べるのは本質ではなく、何らかの原因から派生し勘違いということもある。したがって、調査において重要なのはインターフェースの専門家が現場に共に入り、ユーザーの「いつもやっていること」を観察するのである。観察によって「ユーザーの言っていることではなく、やっていることを信じろ」というのはいまや常識となっている。
これはインターフェースの話をしているように見えます。ですが、あらゆる業務アプリケーションはインターフェースです。我々はソフトウェアを使って表現をしているのです。今一度、ちゃんと考えたいですね。
![]() | Inter Communication (インターコミュニケーション) 2007年 04月号 [雑誌] エヌ・ティ・ティ出版 2007-02-27 by G-Tools |

