キャズム以来、ジェフリー・ムーア氏の新作ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション。キャズムはテクノロジーの「立ち上げ」に関する論考だったわけですが、今回は成長・成熟・衰退というマーケット全体の流れの中で、"コアとコンテキスト"という概念を中軸にすえながら、イノベーションの形態をうまくフレームワーク化しています。
コアとコンテキストは訳者である栗原さんの解説とか、全体はここら辺に任せます。
永遠にイノベーションを続ける
この本の議論は
「永遠にイノベーションを続けるのはどうしたらよいか」永遠にイノベーションを続けるということは単なる熱意の問題ではなく、入念な計画によるということだ。それは戦略ではない。生き残りのための大前提である。
ということです。そして、そのために市場の状況におけるイノベーションタイプを分類しています。第2部では14個の形態が説明されています。
慣性力を管理してイノベーションを実行する
そして、イノベーションの形態を理解したうえで、これをいかに実行すべきか。この本で一番面白いのは、そこを示した第3部「慣性力を管理する」でしょう。
慣性力とは
戦略実行に必要な変化に抵抗する社内の力
ではあるものの、一方では
現在の戦略を継続する助けになる要素、最後に行なった過去にイノベーションの残した遺言と言い換えることができる。一言で言えば、慣性力はイノベーションの敵ではない。
というものです。というわけで、現状では慣性力を利用ながらも、次に向けて慣性力を管理する方法について示唆を与えてくれています。
資源の再構成
まずコア-コンテキストの分析フレームワークがあります。
| コア | コンテキスト | |
| ミッション・クリティカル | B | C |
| 非ミッション・クリティカル | A | D |
製品や業務というものは、Aに始まり、B、C、Dと辿っていきます。
慣性力が強く発生するのはCやDのコンテクストです。儲けの源泉でもあるし、Cはセキュリティなどの「ミスしたら大変になるけど、うまくいってもプラス要因にならないもの」というものです。差別化要因ではないのだけど、実際にはここに人材や資源が滞留してしまう。
その結果としてイノベーティブな研究成果(=A)をBに育て上げる(キャズムを超えさせる)だけの資源が集められないということになります。
こういった場合にやるべきことは、資源を食いつぶしているCやDの業務を再構成して生産性を高めること。そのための5段階モデルが次。
・集中化 : 権限を集中させる
・標準化 : 複数の類似プロセスを統合し、標準化する
・モジュール化 : 製品やプロセスや構成要素に分解しモジュール化する
・最適化 : 冗長なタククを発見し、最適化する
・アウトソーシング : プロセスをアウトソーシング化していく
ちなみに、このモデルはシステム開発に関するオフショア問題を考えるのにいいですね。オフショア、ようはアウトソーシングというのは5段階モデルの最終段階です。
オフショアする前にやることあるんじゃね?というのが良く分かります。逆に言えば、オフショアで成功するためには4段階をちゃんと行なうことが重要です。
ま、そもそもシステム開発において、コアとコンテキストをきちんと切り分けることが大事なわけですが。おまいらコアまでアウトソースしていないかと。
資源のリサイクル
さて、こうした「資源の再構成」をモデル化しつつ、さらに論考は進みます。それは「資源のリサイクル」。
ここでムーア氏がリサイクルという言葉をあえて使っています。これまでは「コンテキスト(CD)で解雇し、コア(AB)で雇う」ということだったのですが、これを繰り返すほどに、
企業文化を損ない、最終的には労働者の忠誠心の低下を招く。人材採用、解雇手当、研修のコストが増大するだけでなく、新規雇用、ノウハウの喪失、営業秘密漏洩のリスクも高まる。従業員全体に繰り返し動揺を与え、至る所で生産力が減少する。要するに最悪のモデルということだ。
となってしまいます。
とはいえ、コンテクストの人材が解放できても、コアで必要とされる能力が異なるので、すぐにはコア業務に振り分けられません。
そこで、業務とは逆周りにD -> C -> B -> Aと人材をまわしていく必要性があります。業務はA -> B -> C -> Dと回りますが、そもそもAからB、BからC、CからDという移管は、そもそも求められるスキルも異なります。ですから、人材を再教育してい配置するというよりも、その人の適正に合わせた業務に割り当てなおすというような意味になります。
ちょうど下りのエスカレーターを上るようなもので、業務にひきづられてコンテキストにいった人材をコアに戻す、というようなイメージですね。
この業務の流れと人材の流れを意図的にコントロールすることが、イノベーションを永遠に実行するための重要なポイントなのでしょう。
前回のキャズムに比べると最後の章まで非常に満足度が高く仕上がっています。言われてみれば当たり前のことばかりですが、これをちゃんと説明する力はさすがというべきでしょう。
実際の形態の説明や慣性力管理の細かい方法は、ぜひ本を当たってください。さくさく読めるのでオススメです。
システム開発への応用?
さて、このライフサイクル・イノベーションですが、いろんなところに応用が効くと感じています。僕の場合は直接的ではないにせよ、システム開発での適用を考えてしまいます。
アイデアとしてはRUPのような設計 -> 実装 ->配置というプロジェクトの流れではなく、プロジェクトの健全性に対する考え方です。
プロジェクトにイノベーションがいるのか?と言われてしまいそうですが、それぐらいのダイナミズムがあるのが実体ではないでしょうか。1年間も同じ作業なんかやってるわけないのです。だからこそ、プロジェクトの慣性力をうまくコントロールすることが重要になると考えられます。
成長期というのはプロジェクトチームを展開していく過程、成熟期は開発が順調に進む過程、そして衰退期がデスマーチの過程。ムーア氏は成熟市場においてイノベーションのタイプを大きく2つ、マーケティングなどの顧客価値と、製造の効率化に分けています。このアイデアは同じように適用可能だと感じています。
ま、まだ妄想段階ですが、次のプロジェクト辺りでは考えてみてもよいかもと思ったりして。
![]() | ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション ジェフリー・ムーア 栗原 潔 翔泳社 2006-05-16 by G-Tools |

