日本人が書いた、アマゾン・ジャパンのローンチ近辺の実録本だ。筆者の松本氏はアマゾンの中では年齢の高いほう(ローンチ時点で40代後半)であり、本の内容も、一歩引いた視点から、アマゾンというものを冷静に見たつくりになっている。
システムへのこだわり
ソフトウェアエンジニアとしては、アマゾンのシステムのすごさは以前から漏れ聞こえてきたものだし、内容に驚くようなものはない。しかし、それらが、1つの哲学の元に作られているという事実を改めて認識すると、妥協のないそのつくりがうらやましいと思える。たとえば、アマゾンで商品を探していると、左側に「最近チェックした商品」が出てくる。そして、そこからマイページに飛ぶと、最近チェックした本に基づいたオススメ商品がならぶ。こうした仕掛けは、購買情報だけから抽出されたもので、デモグラフィックな情報は含まれていない。本書にもあったが、
ある特定のAという商品を購入する顧客は、単にAという商品を購入する顧客に過ぎず、実はその顧客のプロファイルとは基本的には関係ない。 アマゾンでよく見かける「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」というオススメ機能=リコメンデーションは、購入行動パターン履歴の集積から解析されたものである。ひとりひとりを点として捉えることで、相似の購入行動という線を見出し、さらにその相関曲線から、向かう方向性を提示していくことで、顧客が真に望んでいるものの発見へのヒントを見出す。
ということだ。すごいのは、たとえこれを思いついたとしても、これをリアルタイムに実現し、かつパフォーマンスを確保する、そのシステムである。どれだけ投資すれば、こういったものが得られるのだろうか?これだけでも、非常に価値のあるのだ。ま、一方で、何の気なしに押してしまった本の情報を、いつまでも引きずってしまうという面があるので、理想と現実の間には、まだ距離がある。
社員を大人として扱う
本書の最後に、アマゾンで学んだこととして、「社員を大人として扱う」ということが書かれている。そして、日本的な子ども扱いとは対照的であると書かれている。ここで注目すべきことは、ある若い社員を筆者のやり取りから感じ取れる。
「アマゾンって、何も教えてくれないんですね」。ため息まじりの彼女に思わず僕は相槌を打った。
「うん。アマゾンは何も教えちゃくれないよ。でも、アマゾンではすべてを自分で学ぶことができる環境が整えられているから大丈夫だよ。意味分かるよね?」
<中略>
僕の行った意味とは、イントラネットをさまより、探そうとすれば、悩んでいることの答えが必ずその中に潜んでいるという事実だった。僕は短いアマゾンの経験の中で、アマゾンの教育方針がいわゆるヒューリスティック(発見的)なものではないかと考えるようになっていた。
つまり、アマゾンは、何も教えてはくれないが、何もしていないわけではない。社員同士が、知識を共有できる環境を完璧に用意し、その上で、本人たちの自主性に任せている。「あなたたちは大人なんなんだから、責任をもって自由にやりなさい」といっているだけではない。社員を支えるプラットフォームとしての役割を実に理解している。社員を支える部門自体が大人だからこそ、社員も大人として振舞うことができるのである。
まとめ
実は、この本の中には、アマゾンへの批判の視点も込められている。アマゾンは操業当初からの赤字に苦しみ、一時期極端な緊縮財政を引いたことがある(いまは、だいぶ緩和されたと思うが)。日本のローンチは、ちょうどその時期にあたるため、十分なプロモーションが行えなかったり、新規というだけでプロジェクトがはじめられなかったりと、問題も抱えていたようだ。
だからこそ、大人の視点で見た、リアルなアマゾンの文化というのが分かるのではないだろうか。さくっと読める本なので、アマゾンの文化を知りたい人は一読してみてはどうだろうか。
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