以前のエントリ「抽象化によるシステム設計?」で紹介した、磯崎新氏の著作「空間へ 根源へと遡行する思考」に書かれていた「プロセス・プランニング論」という話題
建築物の中でも図書館というのは、普通のビルと違っている部分がある。それは、増え続ける蔵書に対して、増築を余儀なくされる点だ。磯崎氏が言うのは、この図書館建築に当たる場合の3つのアプローチである。
1)クローズド・プランニング(閉ざされた建築)
2)モジューラー・プランニング あるいは オープンプランニング(ひらかれた建築)
3)プロセス・プランニング(プロセスの建築)
1)クローズド・プランニング(閉ざされた建築)
氏によれば、
あらかじめ欠損をつくり、順次これをうずめて行き、いつか完成する。建築のイメージとしては、当初から完成された終末が予想されている。
というもので、帝国図書館を例に挙げている。帝国図書館は、全体の1/4しか建設されて、ついに完成することなく国会図書館に地位を譲ってしまったのだが、
帝国図書館があの擬古典的なスタイルをもって今後とも建築が続行されるとは考えられない。にもかかわらずそれは完成された設計図を持っている。その目標に向かって60年間歩みつづけたのだ。そして遂に未完成であった。完成された設計図は徒労であったという他ない。無意味となった設計図をつくったというのはどこかに間違いがあったのだ。
その間違いを「建築の平面計画に対する根本的な概念」であるとし、閉ざされた建築でアプローチしたことが問題だとする。完成イメージという固定された枠に対して、足りない部分を充填していくという考え方だ。そして、完成イメージに対して、常に未完成でありながらも、1つの建築として完成してなければならないという矛盾さが「無残さ」として表現される。
2)モジューラー・プランニング あるいは オープンプランニング(ひらかれた建築)
氏によれば、
空間の内部での用途の変化、あるいは量的な拡張が当初から考えられ、これに対する処理として空間を均質化していく。
というもので、空間のモジュール化による「均質化された無限定空間」と表現している。これは、図書館の成長性と変動性から導かれたもので、書庫、閲覧所などの空間を、同じモジュールの利用方法として提供されることで、自由な拡張と配置換えを可能にするというものだ。良いアイデアのように思う。しかし、それは、僕の知っている言葉で表現すれば、アフォーダンスの欠如ということになる。最大公約数的なアプローチでしか探された、一切の目的を持たない、無機質で受け身なモジュールによって、
ドラマを喪失した建築がここに発生するのである。
とする。ここまでくると、ある程度、美学として論じられる部分が存在するが、たしかにつまらない建築になることは確かである。
3)プロセス・プランニング(プロセスの建築)
そして、これらの解決概念として提示されるのがプロセス・プランニングである。氏は、
エレメントの共存を可能にし、その自己同一性を段階的に保持しながら、総体としての規模の増加とアクテイビティの変動に耐える可能性をもつ
(※エレメント:図書館の中における要素。たとえば、書庫や閲覧室)
とする。この概念は、非常に抽象的ではあるが、氏は、大分県立図書館でこれを試みる。まず必要なのは、
それは《空間を体系化》することであり、これを可能にするのは《機能類型化》とも呼べる操作である。
機能類型化とは、そのなかで相互互換性が成立しうるような機能群を想定し、内部での変動を可能にしながらも、なお独立した性格が保持できるような類型に全体の諸機能を整理し、それに特定の空間を対応させることによって個々の構成エレメントを明確化することであると考えていい。
僕が解釈するには、固定的な完成図を描くのではなく、機能の類型化から生まれる成長の方向性を定義することこそが重要であるということだ。それは、フレームワークやパターンといわれるものだろう。なお、氏は、スケルトンという言葉を使っている。
ただし、こうした機能は、規模の拡張によって、突然、重要度や必要性が変化することがある。
この性格を私はかつて都市の発展段階の分析にあたって発生的要因と呼んだのだが、生物学用語との関連を考えると創発的形質(EMERGENT)としてもいい。創発的形質という概念の中には単調な進化でなく、突発的でドラスティックな展開がなされるという意味が込められている。すなわち成長は連続していないのだ。
ソフトウェアデザインにおけるプロセス・プランニングとは
さて、いつものようにソフトウェアデザインに持っていく。この成長するシステムという概念は、まだまだ実現されていないと見るべきだろう。XPの概念「変化ヲ抱擁セヨ」は、システム構築段階の手法であって、運用をも含めた長期的な視野での設計法ではない(異論があるかもしれないが、少なくとも、多くの実践は、構築にしか利用されていない)。
しかし、建築に比べ、物理的な空間という制限がない分、はるかに可能性が高いように感じる。
たとえば、機能の類型化という点では、「ビジネス的な機能」ではなく、もう少し異なった視点が必要だろう。ビジネス的な機能にするということは、ビジネスそのものが拡張可能なように設計されているということだが、現段階では非常に難しいと思う(あっても、当然かまわない)。むしろ、システムから見た類型化が求められるはずだ。
また、創発的形質、たとえば、利用人数やビジネスの急激な変化によって、複雑さやパフォーマンスへの対応が求められる場合が考えられるが、そういったときにどう対応できるかが非常に重要なファクターとなってくると考えられる。
これらについては、多くを実践から学ぶ必要性がある。成長するソフトウェアというのが実現されるのは、まだ少し先の話だろうが、方向性は見えていると確信している。
最後に、自戒の意味も込めて、この文章を引用しておく。
しばしば私たちは決められた諸条件の枠のなかにうまく収めることに多くのエネルギーを費やさねばならないが、そういう操作に麻痺してくると、建築には決定的な枠が存在し、その枠のなかでの分割作業が中心だという錯覚を起こしがちである。建築の全体像が閉じてしまい、変動に耐えられなくなる結果を生ずるのはこういう転倒が行われた時である。
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コメント (3)
最後の引用された文章、、まさにその通りですよね。
わたしゃも自戒の意味で読めます(笑)
わたしゃはyusukeさんが仰られている「成長するソフトウェア」という言葉、概念を考えたことがありませんでした。
このような言葉が存在するということを意識できれば、それに近づけるのかもしれないという希望も持てました。
いつも貴重な情報ありがとうございます。
投稿者: U | 2005年02月06日 19:59
日時: 2005年02月06日 19:59
arclamp.jpのyusukeです。Uさん、コメントありがとうございます。
今までは、最後の引用した文章のように、終わりを決めて分割するアプローチが正しいと思われていたように感じます。でも、実際には、ビジネスの変化に合わせて、自由に成長させられるシステムが求められている気がしますね。
投稿者: yusuke | 2005年02月07日 14:15
日時: 2005年02月07日 14:15
> 終わりを決めて分割するアプローチ
そうですよね。開発期間、契約などに縛られている技術者が多いですし。ある程度余裕のある会社とか、研究機関とかでないと「成長」させることは難しいのかもしれません。
でも意識しているのと、していないのでは、わたしゃは違うと思っています。意識してみます。
お忙しい中コメントありがとうございました。
投稿者: U | 2005年02月07日 21:07
日時: 2005年02月07日 21:07