『バブルの生んだ5大粗大ごみ』発言でおなじみ(?)の磯崎新氏の著作「空間へ 根源へと遡行する思考」を読んでいる。その中で、日本における都市計画がシンボルの分布によって考えられているという指摘が非常に面白かった。
デフォルメによる表現
まず、磯崎氏が取り上げたのが懐宝御江戸絵図である。

この地図に対して、
実在の道路と比較して奇妙なひずみをもったパターンと、その地図上にプロットされたシンボルとしての記号の分布、それだけの材料で、かえってわれわれは《正確な》江戸のイメージを描くことが可能になる。 (※シンボル=諸大名の屋敷を示す家紋と、寺社仏閣)
と指摘する。実は、日本には今でのこれと良く似た地図がある。"観光マップ"といわれるものだ。車を運転する側になってみると、なんとも頼りない地図だが、徒歩で歩き回わるには分かりやすい。そして、
いまわれわれが都市空間を解析しイメージを提出しようとするときに、可測的正確度をもった平面地図よりも、変形し抽象化した技法によることが、伝達を正確にする可能性をもっている事実を認めるべきである。日本の感性的な空間表現を現代的に評価し、技法化することがいま重要になってくるのである。
とする。つまり、イメージというのは、相手が認知された時に、相手の意識の中に現れるものである。だから、都市空間を伝えるということであれば、その"内的なイメージ"に対して的確な表現を考えなくてはいけないということだ。
もう1つの例としては、俯瞰図として、町田家蔵の"洛中洛外図屏風"をあげる。

これは、京都の町を描いたものだが、屏風をぐるりとまわりにならべることで、相国寺七重の塔から見たままの絵であることが分かる。ところが、多くの部分が雲や煙によって隠されており、その合間から京の町のシンボルとなる建物ばかりが見えるという《雲煙の技法》が使われている。一方、同時期に書かれた西洋の俯瞰図は、緻密で正確である。

(http://www.kajima.co.jp/gallery/chronopolis/hund/hund_cam.htmlより)
これを、
表現の形式を変化させることで主観的な強調をするのではなく、もっぱら冷静な理論でもって全空間が均一な手法で捉えられる。ディテールの正確さの集積が、すなわち全空間の表現の正確さに一致するという信念のあることをうたがえない。このときに都市空間はそういう技法によって主体の外部に置かれたかにみえるのるのだ。
と、指摘する。
こうした考察から、日本的な感覚を、『エレメントの相対的な関係性のみによって成立している』と表現する。エレメント(シンボル)に特別な意味づけを行い、そして、エレメント同士の関係において、距離、方向、そして相対的な大きさを決定している。こうすることによって、ただの地図というものよりも、さらに高次な意味をも表現することができる。ここらへん、持って回って5周ぐらいぐるぐるした書き方なので簡潔にしているが、さらにもう少し踏み込んだ議論がされていて興味深い。
抽象化によるシステム設計
さて、いつもどおり、ここからシステム構築の話になる。仮説としては、こうした論理的・分析的な"物事を逐一正確に書き起こす"という西洋的感覚が、当然、システム設計の世界に持ち込まれており、そして、その手法が日本人の感覚にあわないのではないのかということだ。
確かに、UMLのような表現技法、さらにはMDAにいたる考え方には、正確な設計が、そのまま実体をあらわすという意識が見えている。そこに、オブジェクトごとの強弱というのは存在しない。
一方、日本においては、どのような設計技法が使われているのか(利用されているのか)というデータを持たないので、なんともいえないのだが、仔細をあいまいにし、重要なポイントとその関係だけが明確(仔細があいまいのなので、なんとなく明確になっているという奇妙な状態)になっているという指摘は、結構当たっているのではないと思う。
では、磯崎氏が指摘するように、実体を可測的に表現するよりも、わざと変形、抽象化したほうが、正確なイメージを与えることができるなら、UMLよりもよい設計方法があるといえるのかもしれない。今の時点では、僕自身、良いアイデアが浮かばないのだが、良い方向である気がする。特に、ビジネス側の人に、システムの概観を理解してもらうためには、UMLよりも、さらに抽象的な概念が必要であるというのは間違いないと思う。
なお、この本は磯崎氏の1960年代のコラムを集めたもので、500ページに及ぶ。小難しい言い回しが非常に多い(というか、半分以上理解できない)ので、就寝前に読むと、良く眠れるという効果があるのでオススメ(?)である。
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コメント (2)
偶然拝見したので、ごあいさつまで・・
私も昨年9月に某メーカーを退職し、現在フリーランスです。一応ヒューマンセンタードデザイン エキスパートで通しております。
江戸趣向の話面白かったですよ。私はロマンがあるものを愛しているので、ロマンを忘れずに仕事をしていきたいと思っております。また来ます。(松)
投稿者: 松原幸行 | 2005年02月19日 20:50
日時: 2005年02月19日 20:50
arclamp.jpのyusukeです。
松原さん、コメントありがとうございまず。そう、江戸というのは日本人のルーツが色濃く残っているんですよね。知れば知るほど、文化の完成度の高さに驚かされます。
これからも、よろしくです。
投稿者: yusuke | 2005年02月22日 22:20
日時: 2005年02月22日 22:20